虎尾伴内の手帳 ~真夏の顔を持つ男~

ただしBREEZEは鼻から通り抜ける

自由(席)の戦士

ついさっきまで、僕は自由(席)の戦士だった。

            優しさや譲り合い等といった甘い考えはここでは通用しない。ただそこにあるのは、自らの居場所を求め、戦場をひたすらに動き回る魑魅魍魎どもの姿だけだ。

ある者は人を突き飛ばしても謝りもせず、またある者は鬼の形相で狭い道を突き進む。またある者はすでに自由を手に入れたもの達にたいして、憎しみを込めたまなざしを投げ掛ける。

この戦場で僕はほんの一時だけ鬼と化した・・。

そして見つけた。僕だけの居場所を・・勝った!その時はそう思った。

しかし・・僕はすぐに気付いた。悪魔達のあげる狼煙に・・・。

そうだ、ここは煙の誘惑から逃げ出せなくなった者達の溜り場だったのだ。

僕にとって彼らのだす煙は単なる呼吸の妨げにすぎない。

僕は自分が勝者ではなかったことに気付き、愕然としながらも、鬼と化してまで見つけた自らの居場所を動くことはできなかった。

自由(席)の戦士 ~完~